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動機づけ

マレーの欲求リスト

※太文字は顕在的欲求

屈従
(自己卑下)
abasement 罪悪の承服・自己卑下の欲求
他者の影響力や外部の環境要因に敢えて抵抗せずに不利益な状況を受け入れ、自分の敗北や劣等性、弱さを自己呈示したいとする欲求。自己批判や自己否定の認知に根ざした行動を選択して、所与の運命を受け入れて自己の弱さを認めることで、能動的な人生や意欲的な生活を全て諦めてしまうこと。間接的に他者の支援や助力、同情を期待している場合もある。
成就
(達成)
achievement 困難を効果的・効率的・速やかに成し遂げる欲求
自分の設定した目標や帰属集団(企業・学校)から与えられた難易度のある課題を、一定の水準以上で達成したいとする欲求。他者との競争に打ち勝ち、自己の能力や人格を陶冶して、ヒト・モノ・経済に一定の影響力を行使できるようになり、困難な課題や高い目標を達成すること。
親和* affiliation 他者と交際し、仲良くなる欲求
自分の価値や存在を承認してくれる集団に所属したり、自分に好意や安心を与えてくれる他者と一緒にいたいという欲求。互恵的な利益関係を取り結び、親和欲求や安全欲求を相互に満たしあうこと。
攻撃 aggression 他人に対して軽視・嘲笑・傷害・攻撃する欲求
自分に危害を加え、欲求充足を阻害し、敵対的行動を取る相手(敵)を攻撃してダメージを与え、自分に屈服させたり被害損失を軽減させたいとする欲求。防衛的な攻撃欲求と主張的な攻撃欲求、犯罪的・病的な攻撃欲求などを想定することが出来る。
自律 autonomy 他人の影響・支配に抵抗し、独立する欲求
社会的義務や職業上の責任、伝統的慣習から自由になって、強制や束縛、拘束を受けずに自分の行動や判断を独立的(自律的)に行いたいとする欲求。外部の他者・集団・制度・伝統などによる自己の行動の決定や制限に反抗して、自分の事柄は自分で決めたいとする自律的環境の整備への欲求。
反作用 counteraction 名誉を守りたいという欲求
過去の行動から出たマイナスの悪い結果を反転させようとする行動を反作用という。自分の失敗を克服し、名誉を挽回し、弱点を補強することで自尊心や自己効力感を取り戻そうとする欲求。
恭順
(服従)
deference 上位者に従い、使えたいという欲求
階層的秩序のある集団において、自分より上位にいる上司・上官・優位者を賞賛して無条件で支持すると同時に、その命令や指示に従属することで安全欲求やアイデンティティを守ろうとする欲求。強大な勢力を誇る有力者の影響下に入って、服従的な態度を示すことで『栄光浴』の効果を得たいとする『寄らば大樹の陰・長きものには巻かれろ』の欲求。
防衛 defendance 自分を正当化したいという欲求
自分に危害や損失を与えようとする敵意ある相手から自分を守りたいとする欲求。自己の正当性と安全性を担保する為に、攻撃や非難、中傷から自分を守る欲求だけではなく、失敗や屈辱、犯罪といった自分の落ち度を隠蔽しようとする欲求も含む。
支配 dominance 他者をコントロールし、統率する欲求
他者・集団・環境を自分の思い通りに統制して支配したいとする根本的動機によって駆動される欲求で、命令・指示・誘惑・説得などの手段を用いて他者をコントロールすることで優越感を実感する。成績・実績・能力・地位などによる相対的な優劣の尺度を用いて、自分の優位性を確認したいとする欲求。
10 顕示
(露出)
exhibition 他者の注意をひきたいという欲求
他者に自己の存在や行動を見られたい、注目されたいという欲求だが、その根底には、他者の驚きや興奮の反応を見て、他者の感情的興奮や快楽的反応と同一化したいとする無意識的願望がある。単純に、他者を喜ばせたり興奮させたり驚かせてショックを与えて、自己の価値や存在を認めてもらいたいという露出の欲求もある。
11 傷害回避 harmavoidance 痛みを回避する欲求
危機的な状況・病気や怪我による苦痛を回避したいとする欲求。身体的な病気や障害、精神的な疾患や苦悩、病気や事故による死亡などを回避する為に事前に何らかの対処や予防、抑止の行動を取ること。
12 屈辱回避
(恥辱の回避)
infavoidance 失敗を回避し、弱みを隠す欲求
自分の自尊心を低下させるような他者の行動や発現の影響を回避しようとする欲求。具体的には、嘲笑・侮辱・無礼・揶揄・愚弄・無関心などの言動を他者から取られないようにしたいとする回避欲求で、消極的な行動や自己呈示の抑制へつながる。
13 不可侵 inviolacy 侵されることなく、自尊心を失わないようにし、”よい評判”を維持しようとする要求
他者が踏み込めない自分だけのプライベートな物理的・心理的領域を確保しておきたいとする欲求で、誰にも構われず干渉されずに放っておかれるプライバシーの権利に近いものである。人間は他者とのコミュニケーションによって自尊心やアイデンティティを維持する一方で、他者が関われない不可侵のプライバシーを持つことで精神的な安定感や充実感を持つことが出来る。
14 養護 nurturance 困っている人を助けたいという欲求
15 秩序 order 整理、組織化し、正確である欲求
16 遊戯 play 楽しみ、リラックスする欲求
実利的な意図や客観的な目的を意識せずに、ストレス発散や知的好奇心、親和欲求に基づいて自由に遊びたいという欲求。社会的義務や経済的責任とは無関係な気楽なゲームや遊びで楽しんで、リラックスした雰囲気と娯楽的な喜びを味わいたいとする欲求。
17 排斥
(拒絶)
rejection 他者を排除したいという欲求
自分に危害や損失を加えてくる敵対的な他者と一定の距離を置いて拒絶したい欲求。自分が必要とせず利益にならない相手との関係を拒絶しようとする冷淡な態度や集団社会から他者を拒絶しようとする排他的な振る舞い(いじめの衝動)。
18 隠遁 seclusion
19 感性 sentience 感覚的な印象を楽しむ欲求
20 sex 性的な関係を構築し、そこから快楽を得る欲求
21 求護
(養育的依存)
succorance 保護や同情を得たいという欲求
子供時代に両親が無条件で自分の存在を認めてくれて、高く評価してくれたように、他者から無条件の支持や献身的な協力を得て、無償の愛情や信頼の感情を注がれたいとする欲求。一般的には、『他者に甘えたい欲求』として認識され、いつも見守っていて欲しい、ずっと一緒にいて欲しい、絶対に裏切らずに愛し続けて欲しいなどの言葉で表現される。
22 優越 superiority 優位に立つ欲求。達成と承認の合成。
23 理解 understanding 分析、経験し、知恵を得る欲求
世界や人間、精神、他者、自然界などをより正確かつ詳細に理解したいという欲求で、実践的(実利的)な知識や技能を求める場合と教養的(娯楽的)な知識や情報を求める場合とがある。事象を一般的に解き明かす科学的理論と問題を個別的に解き明かす実践的理論を求める欲求。
24 獲得 acquisition 財産を得る欲求
25 非難回避 blamavoidance ルールに従う欲求
26 認識 cognizance 探索し、質問し、好奇心を満足させる要求
27 構成 construction なにかを創造し、構築する欲求
28 説明 exposition 情報を提供し、教育したいという欲求
29 承認 recognition 認められ、ステータスを得る欲求
30 保持 retention 財物を持ち続ける、貯蔵する、消費を最小化する欲求

マレー(Murray,1938)

マレーによれば、人間の行動は上記リストの欲求を充足させる過程として捉えられる。
マレーはさらに、社会生活を通じて獲得される動機として、6つの側面から20種類以上の動機をあげている。
人間の行動を欲求で説明し、欲求から予測するには、人間の行動とは独立に、欲求の種類とその強度を測定できなければならない。
マレーは欲求リストの作成にあたり、1935年、Morganと共同で「課題統覚検査」(thematicapperception test:TAT)とよばれる方法を開発した。TATは、心理検査における投影法(projection techniques)または,投影検査法(projection tests)の1つである。

社会心理学 ―シャクターによる親和*欲求の実験

親和欲求とは、他人と友好的な関係をつくりあげ、維持しようとする欲求であり、マレーのリストの中ではよく知られた欲求の一つである。
アメリカのシャクターという心理学者が親和欲求について以下のような実験をした。

シャクターによる親和欲求の実験

女子学生を被験者として、電気ショックを用いた実験への参加を要請した。
つまり、「人は強い恐怖におそわれたとき、誰かと一緒にいたいと願うのか否か」を調べた。
シャクターの実験では、高い不安にさらされた被験者たちは、実験が始まるまで他の被験者たちと一緒に同じ部屋で待つことを望んだ。